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大阪高等裁判所 平成7年(行コ)50号 判決 1996年3月22日

大阪府四條畷市中野本町六番二九号

控訴人

松村榮子

右訴訟代理人弁護士

黒瀬英昭

水田利裕

小杉茂雄

澤田隆

市瀬義文

大阪府門真市殿島町八番一二号

被控訴人

門真税務署長 猿橋崇史

右指定代理人

野中百合子

桑名義信

清水透

八木康彦

主文

一  本件控訴を棄却する。

二  控訴費用は控訴人の負担とする。

事実及び理由

第一当事者の申立て

一  控訴人

1  原判決を取り消す。

2  被控訴人が控訴人の平成二年分の所得税について、平成三年一二月二四日付けでした更正処分のうち、所得金額一二六万三〇〇〇円を超える部分及び過少申告加算税の賦課決定処分を取り消す。

3  訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二  被控訴人

主文同旨

第二本件事案の概要と当事者双方の主張

一  原判決二枚目裏九行目の「の間で」を「との間で」と改め、同四枚目裏一〇行目の「危険負担」の次に「並びに手付倍額償還による解約」を、同五枚目表一行目末尾の次に「また、控訴人は、草刈り、虫への対処などして、本件土地につき、平成三年三月二九日まで管理していた。」をそれぞれ加えるほかは、原判決二枚目表五行目冒頭から同七枚目表一〇行目末尾までと同一であるから、これを引用する。

二  当審における当事者双方の主張

1  控訴人の主張

(一) 被控訴人は、被相続人富三の相続税に関し、控訴人が相続により取得したのは、本件各土地でなく、被相続人富三が川鉄商事と契約した本件各土地の売買残代金の請求権であるとしているのに、その後、控訴人が、当該土地を処分したとして譲渡所得税を課税するのは不当である。

(二) 右が不当でないとするも、被控訴人は、すくなくとも売買残代金の請求権を相続したと認定したのであるから、譲渡所得の計算に当たり、控除を受けられるべき「取得費に加算される相続税額」が、売買残代金より低額の土地を相続した場合と同じ金額であるのは不当である。

(三) この相続税額について、被控訴人は、被相続人富三の相続税に関する更正処分取消訴訟において(大阪地方裁判所平成七年〔行ウ〕第二六号事件・以下「別件訴訟」という。)、控訴人が納付すべき相続税額は金九二八〇万六八〇〇円と主張しているのであるから、本件において取得費に加算される相続税額は右金額を基礎として算定するべきである。」

2  被控訴人の主張

(一) 別件訴訟における被控訴人の主張は、控訴人が本件各土地を相続したものとした上で、ただ、本件各土地の価額について、売買残代金請求権と同価値のものを相続により取得したものと評価するのが相当であと解して相続税を認定し直したというものであるから、控訴人が相続した本件各土地を更に譲渡したことによる譲渡所得税を課税されることは不当ではない。

(二) 相続税について、修正申告書の提出、異議申立に係る決定、審査請求に対する裁決又は判決により異動が生じた場合には、当該異動後の相続税額を基礎として、「取得費に加算される相続税額」の再計算を行うこととなっているところ、別件訴訟の相続税について、平成四年一二月七日付け異議決定により、その基礎となる相続税額に異動があったことから、本件においては、右異議決定により確定している金額である二五一万九九五三円を基礎として計算を行っているものである。

(三) 別件訴訟において被控訴人が主張した相続税額は、その相続税の更正処分等の金額(ただし、異議決定により修正された額)の適法性を根拠付けるために、理論的には、右更正処分等(ただし、異議決定により修正された額)を超える金額となることを明確にするために計算したものにすぎない。

三  証拠

証拠関係は、原審及び当審記録中の各証拠関係目録記載のとおりであるから、これを引用する。

第三当裁判所の判断

一  次のとおり補正するほかは、原判決七枚目裏三行目冒頭から同一〇枚目表九行目末尾までの記載と同一であるから、これを引用する。

1  原判決九枚目表三行目の「本件契約書中、」の次に「<1>」を加え、同五行目から同六行目にかけての「定めがあるけれども、右文言はいずれも印刷された不動文字によるものであり、また、」を「定めがあり、また、<2>売主は買主に対し、手付金、前渡金の全額を返還するとともに、手付金と同額を支払うときは、残代金の授受が行われるまでは本件契約を解約することができる(第一〇条)旨の定めがあるけれども、本件各土地は、本件契約の前日にいずれも地目が田から雑種地に変更されている(乙第二号証1ないし4)ところ、控訴人が現実にこれを利用しあるいは収益を得ていたことが窺える資料はなく、公租公課についても、」と、同八行目の「足らず、いわんや」を「足りない。また、右<2>の手付金倍額償還による解約の定めは、所有権移転の時期に関係なく右金員を支払ったときは、本件契約を解約できるとする特別の合意にすぎないから、」とそれぞれ改める。

2  同九枚目表一〇行目冒頭の「原告からは」から同裏五行目末尾までを次のとおり改める。

「本件各土地と一部隣接地との筆界確認が平成三年三月二九日に行われ、右筆界確認まで、本件各土地の引渡しが留保されていた旨の証人松村正孝の供述及び供述記載(甲第六号証)がある。確かに、前記認定のとおり、本件契約では、控訴人は川鉄商事に対し、建築確認申請に必要な実測図を交付する義務があり、右の履行と引換えに残代金五億円の支払が約定されており、また、一般的には、隣地所有者との境界確認や実測図の交付は、引渡しの前提としてなされるものではあるけれども、本件契約では、売買目的たる土地の面積は公簿によるものとされ、実測面積と公簿面積に差異が生じても売買代金の清算をしない(第四条)旨約定され、取引の形態も現状有姿による取引とされ(特約)ていること、また、本件契約上、右実測図の交付は建物建築確認申請のために必要であるとして定められた(第三条)と解されること(以上乙第一号証)からすると、本件契約上は、本件土地の引渡しの前提として右実測図の交付義務等の履行が定められているものではないと認められるばかりか、右供述自体や甲第二号証の四によっても、残代金が支払われた平成三年三月二九日には、一部隣接地との筆界確認がされないままであり、その後になって、川鉄商事が一部隣接地所有者に対して境界確認の訴訟を提起してその判決を得た後に、実測図が作成されたことが認められることなどに照らすと、本件契約当事者は、筆界確認や実測図の交付の時期と本件土地の引渡時期とは、何ら関連がないものと認識していたというべきである。

したがって、本件契約当事者が、残代金の支払まで本件各土地の引渡しを留保する意思であったものということはできない。

さらに、証人松村正孝は、平成三年三月二八日まで、本件土地について草刈りをするなどして管理をしてきた旨供述するが、右供述は、前記認定の契約の趣旨や履行の状況等に照らすとたやすく採用できないし、仮に右程度の行為があったとしても、控訴人が本件土地を平成二年一一月二八日に引き渡したとの前記認定を左右するものとはいえない。」

二  当審における主張に対する判断

甲第八号証、乙第一六、第一七号証及び弁論の全趣旨によれば、被相続人富三からの相続による控訴人の相続税については、被控訴人により更正処分等がなされ、これについて、控訴人が異議の申立てをし、平成四年一二月七日に一部修正する決定がなされたこと、被控訴人は、別件訴訟において、控訴人の本件各土地の評価を、被相続人富三が川鉄商事との売買残代金額と同価値とした上、課税価格を離作補償金を控除した四億九六二二万二五五〇円とし、相続により取得した財産の価額(債務控除前)を一九億七三四一万一〇三九円であり、その相続税額が九二八〇万六八〇〇円となる旨の主張をしていること、右主張は、別件訴訟における相続税の更正処分等(ただし、異議決定により修正された額)の適法性を根拠付けるために、控訴人に、理論的には、相続税額として右更正処分等(ただし、異議決定により修正された額)を超える金額が生じていることを主張立証するためになされたものにすぎないこと、相続税について、修正申告書の提出、異議申立に係る決定、審査請求に対する裁決又は判決により、相続税額の異動が生じた場合には、当該異動後の相続税額を基礎として、取得費に加算される金額の再計算を行うべきこととなっていること、別件訴訟の相続税について、平成四年一二月七日付け異議決定により、その基礎となる相続税額に異動があったことから、本件における「取得費に加算される相続税額」は、右異議決定により確定している金額である二四五四万八八〇〇円を基礎として計算を行っているものであること、以上の事実が認められる。

右事実によれば、当審における控訴人の主張(一)は、その前提を欠くから主張自体失当であるし、同(二)(三)も、いずれも理由がない。

三  そうすると、本件更正及びこれに基づく本件決定は適法であり、控訴人の請求は理由がないから棄却すべきである。

よって、これと同旨の原判決は相当であって、本件控訴は理由がないのでこれを棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西川賢二 裁判官 武田多喜子 裁判官 松山文彦)

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